誤嚥性肺炎の予防に大切な、高齢者の食事の工夫
2019.7.19
「飲み込みやすさ」のレベルを理解しよう
飲み込む力が弱っている「嚥下障害(えんげしょうがい)」のある方が、口から安全に食べるには、食物がどんな状態(性状)であるかが重要になります。嚥下障害のある方に提供される食事は、咀嚼しやすい状態に調整された「嚥下調整食(嚥下食)」が適しています。嚥下調整食は、ただやわらかくかみやすいだけではなく、むせることなく食べられ、飲み込みやすい性状である必要があります1)。
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会は、食事提供や調理の目安となるよう、嚥下調整食を5段階のレベルに分類し、図のようにピラミッド状にして示しています。
①嚥下訓練食品0:ゼリー、またはとろみつき液体。少量ずつすくって飲み込めるもの。
②嚥下調整食1:ゼリー・プリン・ムース状の食事。口腔外ですでに適切な食塊状となっているもの。
③嚥下調整食2:ピューレ食、ミキサー食、ペースト食。口腔内の簡単な操作で食塊状となるもの。
④嚥下調整食3:やわらか食、ソフト食。形はあっても簡単に舌と口蓋間で押しつぶしが可能なもの。
⑤嚥下調整食4:軟菜食、移行食。箸やスプーンで切れるやわらかさの食事。
脳卒中などで絶食が続いた方などでは、0から始め、少しずつレベルを高めながらかむ力や飲み込む力を訓練して、普通の食事に近づけていきます1)2)。
嚥下障害の程度によっては、訓練を重ねても普通の食事ができるようにならない方もいます。その方のレベルに合わせた嚥下調整食を毎日の食事としたほうがよいこともあります1)。
高齢者には、ゼリーが飲み込みやすい
かむ力・飲み込む力が弱っている方の食事は、「飲み込みやすさ」と「窒息しにくさ」のバランスが重要です。ゼリー状にするとむせにくくなります4) 。ゼラチン、ゲル化剤などを用いれば、ジュース、汁物、おかゆやおかずなども飲み込みやすいゼリー状にすることができます3)。
ゼリーは、やわらかくてまとまりやすく、均質で、ばらばらになりにくい点で、「飲み込みやすさ」に優れています。また適度な弾性を持ち、すべりが良い点で「窒息しにくさ」も兼ね備えています。
ゼリーを食べてもらうときには、スプーンに山盛りにせず、スライス状にすくうと、かむ力・飲み込む力が弱っている方でも丸のみできます1)4)。
手軽にゼリーを食事に取り入れるには?
ジュースなどの飲料は、ゼラチンやゲル化剤を混ぜれば、比較的簡単にゼリー状にすることができます。しかしデザートとしてだけではなく、エネルギーや栄養素を十分に摂取するためには、おかゆなど主食やおかずもゼリー状にしたいものです。しかし、主食やおかずにゲル化剤を混ぜてミキサーにかけ、器に移し、冷まして固めるという手順は、後片付けも含め、手間がかかります3)。 また、ゼリーの固さや性状を適度に調整する必要もあります4)。
今はさまざまな介護食品が市販されています。必要に応じて、不足しがちな栄養素を補給できるゼリー製品を献立に取り入れると、調理の手間や時間を省け、介護する方の負担も軽くなるでしょう3)。
液体にはとろみをつけましょう
飲み込む力が弱っている方の場合、水やお茶などの液体にもむせてしまうこともあります。とろみのないサラサラした液体は口からのどへと流れ込むスピードが速いため、飲み込む力が弱っていると、気道に蓋をする反射が間に合いません。その結果、食道ではなく気管に入ってしまいやすく、むせてしまうのです4)。
液体によってむせる場合は、とろみをつけることで口からのどへ流れる速度を遅くすることができます4)。
液体にとろみをつけるために便利なのが、市販されているとろみ剤(とろみ調整食品)といわれるパウダー状の増粘剤です1)。普通食と同様に水溶き片栗粉を使用することも可能ですが、加熱する必要がありますし、ダマができたり、均一なとろみをつけることが難しいこともあります。とろみ剤なら、温かいものでも冷たいものでも、液体に加えて混ぜるだけで簡単に均一なとろみをつけることができますし、とろみの強さの調整も簡単です。ジュースやお茶だけでなく、みそ汁などにも使えます1)3)。
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会は、かむ力・飲み込む力が弱っている方へのとろみの基準を「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階に分けて示しています2)。 適切なとろみの濃度は人によって違いますので、誤嚥や誤嚥性肺炎を防ぐためにも必ず医師や歯科医師、管理栄養士などに相談して判断を仰ぎましょう3)。
1.藤島 一郎.嚥下障害のことがよくわかる本.講談社.(2014)
2.日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013. 日摂食嚥下リハ会誌. 17(3)255-267 (2013)
3.中村育子.知っておきたい高齢者の食と栄養.社会保険福祉協会.(2014)
4.栢下 淳.イチからよくわかる摂食・嚥下障害と嚥下調整食 食べにくい患者への食事アプローチ.メディカ出版.(2014)