低栄養 がん治療中の調理の工夫

2019.9.6

調理の工夫

さっぱりしたもの、冷たいものが好まれやすい時期。水分摂取にも気をつけながら栄養のある食事を摂りたいものです。

今日は、調理をしたくてもできない、味覚が変わって味付けが不安、などの治療中によくある悩みに対する対策をお伝えします。

副作用で手が震えるとき

手のしびれや震えがあると、包丁を持つにも勇気がいります。そのような時は思い切って「包丁を使うこと」をお休みしましょう。鶏肉なら切ったもの、牛肉や豚肉は細切れやひき肉、魚は切り身などを選びましょう。また、カット野菜や冷凍野菜、ミックスベジタブルなども活用しましょう。

包丁を使わないレシピはたくさんあります。たとえば鍋で調味料を合わせ、ひき肉とくずした豆腐を入れる「そぼろあんかけ」なども十分にメイン料理になります。細切れ肉とシーフードミックス、カット野菜に火を通し、インスタントラーメンを加えて煮込むと長崎ちゃんぽん風になります。夏だと味噌と豆乳で冷や汁を作り、そこにそうめんを入れるのもいいですね。

味覚障害があるとき

味覚障害なのに家族のために料理を作る場合、「いつもと味が違う」という家族の声に落ち込んだりすることがあるかもしれません。そんな時は、複数の調味料を使って自分で一から味付けすることはせず、材料と一緒に混ぜるだけでおかずができる「メニュー用調味料(おかずのベースになるソース)」のような既成品を使うことも一つですし、めんつゆや煮物つゆなど市販の便利な調味料で味付けするのもよい方法です。

家族で食事をする時には、鉄板焼き、なべ料理、水炊きなど調味不要なものを皆で囲み、好みでたれやポン酢を選んでもらうのもいいですね。「家族のために自分がおいしい料理を作らなければ」というプレッシャーを感じずに、家族のだれかに最後の味見係をお願いするなど協力を得ながら料理を作れると良いでしょう。

気力も体力もなく、たくさん作れないとき

健康な時には食べることは楽しみである一方で、作るのも食べるのも気力や体力のいる仕事です。でも何か作ってあげたいと思ったり、作らないことに罪悪感があるという方もいます。そのような時は、無理のない範囲で一品だけ作るのも良いでしょう。一品と言っても、たとえばお刺身を買ってきてパプリカなどカラフルな野菜で盛り付け、ナッツと調味料をかけてカルパッチョ風にしたものに、フリーズドライのスープや、ポテトサラダなどのスーパーのお惣菜を合わせたりすることで華やかなお料理になります。
もずくや卵豆腐など、スーパーで買ってきたままのものを一品にすることも。

朝の方が午後よりも体調が良いという方が多いですが、そのような場合には体調のよい午前中に食事の一部を作っておいて、夕食時に冷蔵庫から出すだけ、というのもおすすめです。ホームフリージングを活用し、たとえば、ほうれん草をしっかり味付けしたお浸しをおかずカップに入れて冷凍しておくと、お弁当箱にカップごと詰めるだけで、昼頃には自然解凍で食べられます。

また、自分が作れるものだけではどうしても栄養バランスが偏ったり、エネルギーが不足したりする時には、栄養補助食品としてバランスの整った飲み物やゼリーを食後に摂取するのも良いですね。

匂いが気になるとき

抗がん剤治療中に味覚が感じにくくなるのに対して、匂いには敏感になることが多くあります。匂いに敏感な時には温かい食べ物、たとえば炊きたてごはんや焼き魚の匂いなどを不快に感じることがあります。そんな時は冷まして食べたり、冷たい調理法を選んだりするのも一つです。ごはんならお寿司やおにぎりにしたり、冷たいそばなら大根おろしやスダチなどを添えるとさっぱりと食べられます。また、調理中の匂いが気になるときにはガスを使わずに、電子レンジだけで調理するのもおすすめです。

たとえば、鶏肉は料理酒を加えて電子レンジで温めるだけで蒸し鶏になります。このとき、キャベツやもやしを一緒に入れておくのも良いですね。冷ましてゴマダレをかけるのも良いでしょう。パスタやうどんも電子レンジで茹でられます。パスタをレンジで茹でて、流水で冷まし、トマトやツナを合わせた冷たいパスタなども、匂いが気にならずに食べやすい一品です。

ときには栄養補助食品にも頼りましょう

一品を作れた自分、盛り付けができた自分を認めてあげながら、つらい時はお惣菜などの市販品や、栄養補助食品にも頼りましょう。なかには、抗がん剤治療をはじめて急にファストフードのポテトがほしくてたまらなくなった、ごはんでもコンビニエンスストアのおにぎりなら食べられる、という方もいます。栄養が偏っていることよりも、まずはいま治療を乗り越えていくためのエネルギーを補給することが大切です。そして不足している栄養素は、自分に合った栄養補助食品で補うことができます。

栄養補助食品には、小さなパックに入った飲み切りジュースタイプのものから、いろいろな味のそろったゼリーなどさまざまです。市販のジュースやゼリーとちがうのはタンパク質やビタミン、ミネラルを含むことで、きちんと食事の代わりになってくれます。自分の嗜好や体調に合うものを栄養士さんと相談しながら見つけられると良いですね。

この記事の監修
徳島大学医学部代謝栄養学分野 講師
管理栄養士
堤 理恵 先生