低栄養 吐き気、便秘、下痢があるときの栄養と食事
2019.6.21
化学療法中の副作用と向き合う食事 〜消化器症状のあるとき〜
抗がん剤の影響は全身におよぶため、悪い細胞だけでなく良い細胞にも毒性をもたらします。この細胞毒性は新陳代謝の周期が短いところ、すなわち口から喉、食道、胃腸などの消化器に現れやすいといわれています。それが「味覚障害」や「吐き気や嘔吐」、「下痢や便秘」が起こりやすい主な理由です。
吐き気や嘔吐があるときの食事
化学療法中に生じる吐き気については吐き気止め (制吐剤) の利用が効果的とされていますが、吐き気は予防がもっとも効果的で、発現してしまうと治療するのに時間がかかることもあります。そんなときの食事は、少しでも口から食べられるようなら、まずはあせらず、少しずつ、可能であれば回数を増やしてとってみましょう。
また、吐き気は味つけだけではなく、においの影響も大きいため、温かい料理は特ににおいを感じやすいので、冷たいものをおすすめします。そのほか、あっさりしたもの、口当たりのよいもの、飲み込みやすいものが受け入れられやすいです。みかんやりんご、トマト、夏だとスイカや梨など、水分の多い果物や野菜のほか、プリンやシャーベット、ゼリー、卵豆腐、冷や麦などが好まれます。
さらに、吐き気は神経との関係も強く、見た目や自分の好きなもの、抵抗のない食べ物かということも影響します。それでも吐き気がひどい場合には、主治医に相談しましょう。また、思い切って1、2食抜いてみるのもひとつです。その場合に注意したいことは、脱水予防できれば水分とともにミネラルもとれる経口補水製品やスポーツ飲料などを摂取できるといいです。
下痢があるときの食事
化学療法によって生じる下痢には早発性下痢と遅発性下痢があります。早発性下痢とは、抗がん剤の投与で消化管の副交感神経が刺激され、腸管の蠕動が亢進することによるもの。抗がん剤投与後数時間以内に出現し、鼻汁や発汗などの症状を伴うことが多いです。遅発性下痢とは抗がん剤またはその代謝産物によって腸粘膜が障害されることによるものです。下痢をすると、体力も消耗するし、頑張って食べているのに吸収されずに出ていってしまう、と不安になる方もいらっしゃいますが、食べたものがすべて出ていってしまうわけではありません。
ただ、水分を失っていることは意識し十分に補給していきます。
下痢があまりにひどい場合には、主治医に相談しましょう。また、経口補水製品やスポーツ飲料など水分を中心に摂取し、食事は控えましょう。落ち着いてきたら、低脂肪、低食物繊維の胃腸への刺激の少ないものから摂取します。肉類だと脂身の少ないささみなど、魚だと白身魚が食べやすいでしょう。おかゆは消化がよく、また水分もとれるので好まれますが、好みではない人も多いようです。そんなときには、普通のごはんでも大丈夫ですし、お餅だと消化吸収も早いうえに栄養価も高まりますよ。
便秘のときの食事
一方で、抗がん剤の影響で便秘になってしまう方もいらっしゃいます。これは抗がん剤によって腸管の自律神経障害が生じ、腸管蠕動が低下するためです。「なかなかスッキリ出なくて薬の量が増えていく」、「水分をたくさんとっているのに」とおっしゃる方も多いのが現状です。食事では食物繊維が有効であることが多いです。
食物繊維というとゴボウやレンコンのイメージが強いという方も多いですが、特に大腸がんの方などには水分を吸収して便の量を増加させ腸を刺激する不溶性の食物繊維が多いものより水溶性食物繊維の方が摂取しやすいかもしれません。野菜類だと春菊やモロヘイヤ、オクラなどに多いといわれています。
また、ただでさえ食欲がわかないときに野菜ばっかりでおなかがいっぱいになってしまう、ということもあるかもしれません。食物繊維は野菜だけでなく、ひじきやもずく、昆布などの海藻類、キウイやりんご、バナナなどの果物類、そして納豆やきなこなどの豆類にも多いので、食べられるものを適量に食べてみましょう。それでも便がうまく出ない場合は、サプリメントタイプの食物繊維(ファイバー)で腸の調子がよくなることもあるので、ぜひ一度栄養士に相談してみてください。
この記事の監修
徳島大学医学部代謝栄養学分野 講師
管理栄養士
堤 理恵 先生