フレイルとは?
今からできる予防と対策
フレイルとは身体機能や認知機能が徐々に低下してきたときにみられる状態のことをいいます。従来、「虚弱」と訳されていた「Frailty」という語の新しい日本語訳でもあります。ここではフレイルの特徴や、サルコペニアとの違い、判断基準などについて紹介し、食事・運動など適切な対策法をわかりやすく解説します。
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フレイルとは?
フレイルとは、簡単にいうと加齢により体力や気力が弱まっている状態のことです1)2)。
以前は「虚弱」や「衰弱」などとよばれていましたが3)、フレイルは、身体的問題、認知機能の問題、精神的・心理的問題、経済的困窮などの社会的問題など、さまざまな面からなる概念です1)2)。
「虚弱」や「衰弱」という言葉の「加齢により不可逆的に老い衰えた状態」というイメージを払拭すべく、2014年に日本老年医学会が、英単語の「Frailty」がもつ「しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている」とのイメージから、「フレイル」という言葉の使用を提唱しました3)。
フレイルは要介護状態の前段階と考えられていますが1)2)4)、適切な介入により再び健康な状態に戻ることが期待できます。一方で、フレイルを放置すると、心身の機能が徐々に低下し生活の質の低下につながるほか、転倒や骨折、認知症などのリスクが高まります1)5)。また、糖尿病などの生活習慣病の発症にも関連することがわかっています1)。早めのフレイル予防と対策が重要です。
フレイルはどのように進行する?4)
フレイルは、主に加齢による心身の能力低下によって進行します。剛健は、いわゆる健康な状態を指し、生活機能に支障のない段階です。プレ・フレイルはフレイルの前の状態のことで、生活機能の低下が始まっています。プレ・フレイルの時点で予防・対策をせず放置するとフレイル、そして要介護へと進んでいきます。要介護は、身体機能障害などによる寝たきりや認知症などで常に介護を必要とする状態のことをいいます。要介護認定では、要支援1から要介護2前後までをフレイル、要介護3から要介護5を身体機能障害と考えるのが1つの目安です。
フレイルになりやすい年齢は?4)
何歳からフレイルに注意が必要なのか、その年齢は明確ではありません。その人の身体状況によって差があります4)。
ただ、65歳以上の日本人を対象とした調査では、75歳未満でフレイルの方は5%以下ですが80代前半では20%を超え、85歳以上になると約35%の方がフレイルであったと報告されています6)。高齢になればなるほどフレイルに注意が必要といえるでしょう。
フレイルと
サルコペニアの違いは?
サルコペニアとは、加齢などにともなって筋肉量や筋力が低下した状態のことです。歩く速度の低下といった身体機能的な問題も生じてきます5)7)。
フレイルは、身体的な問題だけでなく、認知面、精神的な問題や経済的困窮などの社会的な問題といったさまざまな面での生活機能低下状態を指します2)4)。サルコペニアは身体的な問題としてフレイルを引き起こす原因の1つとなっています7)。
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フレイルの症状と判定基準とは?
フレイルと考えられる状態は、次の5つの項目のうち、3つ以上該当する場合です8)。
項目 | 評価基準 |
---|---|
体重の減少 | 半年で2㎏以上の意図しない体重減少 |
筋力の低下 | 握力:男性<28kg、女性<18kg |
疲労感 | ここ2週間理由もなく疲れたような感じがする |
歩行速度の低下 | 歩く速さが1秒あたり1mを下回る |
身体活動 | ①軽い運動・体操 ②定期的な運動・スポーツ 上記の2ついずれも週1回未満の場合 |
1つか2つ該当する場合は、フレイルの前段階である「プレ・フレイル(前虚弱)」、1つも該当しない場合は「剛健(健康)」と判断します4)8)。
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フレイルになる3つの原因とは?
フレイルは身体的問題や精神的問題などさまざまな要素を持つため、原因も多岐にわたります。ただ、それらの原因は大きく分けると栄養不足・運動不足・社会参加の不足の3つとなります。
栄養不足
加齢や薬剤の副作用による食欲の低下や、食べ物を噛み砕く力や飲み込む力の衰えによる食事量の減少は栄養不足につながります7)。栄養不足になると、筋肉量が減少して、筋力やからだの機能が低下するため、フレイルの悪化を招きます4)7)。
運動不足
高齢になっても自立した生活を送るためには、少しでも多くからだを動かすことが大切です10)。運動習慣や身体活動量が減ると筋肉は減ってしまいます5)。高齢期にみられる筋肉量と筋力の低下は、サルコペニアとよばれ、フレイルの原因の一つとなっています5)7)。
社会参加の不足4)
就労や余暇活動、ボランティアなどで社会との関わりを持っている人は、フレイルに対するリスクが低いと報告されています。社会参加の機会が減ると、運動量や、人との交流が減ってしまいます。そうなると、からだや心の健康が損なわれてしまい、フレイル状態につながります。
持病があるとフレイルになりやすい?1)
フレイルの可能性を高める病気として、糖尿病などの生活習慣病や心血管疾患、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などが知られています。また、持病により多種類の薬を服用して副作用を認めることもフレイルの可能性を高める原因の一つです。
さまざまな要因が重なると
フレイルサイクルに陥ることも
多様な要因が重なると、フレイルサイクルとよばれる悪循環に陥ってしまうことがあります7)。フレイルの段階では、まだ生活にあまり困るほどではなくても、放っておくと心身の機能が徐々に低下し、転倒や骨折、認知症、要介護の可能性を高めます1)。ほかにも骨粗しょう症や生活習慣病の発症、心不全や慢性腎不全などの悪化につながることもあります1)。
早めの気づきと適切な対策で、フレイルサイクルを断ち切ることが大切です11)。
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今からできる
3つのフレイル予防と対策
フレイルになる前の予防だけでなく、フレイルになってからもそれ以上悪くならないよう対策することが重要です11)。毎日の習慣を少しずつ改善してフレイルを対策しましょう12)。
運動
運動は筋力の維持だけでなく、心の健康や食欲増進にも役立ちます12)。65歳以上の方のからだを動かす時間の目安は、1日あたり合計40分です10)。
座ったままにならなければどんな動きでもOK!まずはいつもより10分多くからだを動かすところから始めてみましょう10)12)。
栄養
フレイル対策の軸は栄養です4)。栄養バランスのとれた食事を3食しっかり食べましょう12)。また、残っている歯の数は食べる力に影響します4)7)。いつまでもおいしく食事を楽しむために、歯や歯茎のケアが大切です。
自分自身での口腔ケアのほか、プロの力も必要です。歯科への通院が難しければ訪問歯科を利用し、定期的に検診を受けましょう11)。
1日2回以上は主食、主菜、副菜を組み合わせて食べると栄養バランスが良くなります12)。毎食、たんぱく質を含む食材をプラスすることも意識してみましょう12)。
社会参加
近所の人と一緒にお茶や食事を楽しむだけでも元気を取り戻すきっかけになります11)。外出することがフレイル予防につながります12)。
趣味やボランティア、就労などあなたが前向きな気持ちで参加できる活動を探してみましょう4)12)。
フレイルの予防・対策には
たんぱく質も重要7)12)
たんぱく質の摂取量が減ってしまうと、筋肉量も減少します。そのため、たんぱく質は高齢の方にとって重要な栄養素の1つです。
65歳以上の方を対象に、生活習慣病やフレイル、サルコペニアの発症予防を考慮したたんぱく質の目標量が定められています。まずは、日頃の食生活をふりかえり、毎回の食事にたんぱく質を含む食材をプラスすることから始めてみましょう。
たんぱく質をプラス!11)12)13)
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ゆで卵は前の日に作って冷蔵庫へ
朝食にすぐ食べられます -
麺類には肉や卵をトッピング
-
缶詰や冷凍食品も立派な1品!
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間食にもたんぱく質の
多いものをチョイス -
ごはんには、納豆、卵、しらすなどのたんぱく質をプラス
-
コーヒーには牛乳や豆乳を
たっぷり入れてラテに!
準備が簡単で食べやすい、
卵類 | |
---|---|
|
7.4g |
牛乳・乳製品 | |
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6.6g |
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3.4g |
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3.0g |
肉類 | |
|
3.9g |
|
3.7g |
豆類 | |
|
5.3g |
|
7.4g |
魚類 | |
|
3.4g |
|
3.8g |
心やからだの衰えは加齢のせいとあきらめず、しっかり食べて、からだを動かし、毎日楽しく過ごしたいですね。ぜひ、今できることから始めてみましょう。
監修
若林 秀隆先生
(わかばやし ひでたか)
学歴
- 平成7年
- 横浜市立大学医学部卒業
- 平成28年
- 東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部修了
職歴
- 平成9年5月~
- 横浜市立大学医学部附属病院リハビリテーション科
- 平成10年6月~
- 横浜市総合リハビリテーションセンターリハビリテーション科
- 平成12年4月~
- 横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション科
- 平成15年4月~
- 済生会横浜市南部病院リハビリテーション科
- 平成20年4月~
- 横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科
- 令和2年6月~
- 東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授
- 令和3年5月
- 東京女子医科大学大学院医学研究科リハビリテーション科学分野基幹分野長
資格・役職
- Society on Sarcopenia, Cachexia and Wasting Disorders: Board member, Associate Editor of the Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle
- 日本リハビリテーション栄養学会:監事、リハ栄養指導士
- 日本リハビリテーション病院・施設協会:常務理事、医科歯科連携推進委員会委員長
- 日本サルコペニア・フレイル学会:理事、広報委員会委員長、編集委員、サルコペニア・フレイル指導士
- 日本リハビリテーション医学会:代議員、指導医・専門医・認定医、男女共同参画委員、関東地方会幹事
- 日本栄養治療学会:代議員、指導医、栄養治療リハビリテーションWG長、国際委員、学術集会プログラム委員
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会:評議員、学会認定士
- 日本プライマリ・ケア連合学会:代議員、英文誌編集委員、研究支援委員
- 日本在宅医療連合学会:評議員、編集委員
- 日本腎臓リハビリテーション学会:代議員、腎臓リハ指導士
- 日本カヘキシア・サルコペニア学会:副代表理事
受賞
- 2015年
- The 16th congress of PENSA. Best Free Paper Award Oral Presentation.
- 2018年
- The 4th Asian Conference on Frailty and Sarcopenia. First Prize.
主な著書(単著・編著)
- リハビリテーション栄養ポケットマニュアル.2018.
- イラストで学ぶ 高齢者リハビリテーション栄養.2019.
- PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養 基礎からリハ栄養ケアプロセスまで.2020
- リハビリテーション薬剤実践マニュアル 生活機能を改善させる薬剤の選び方.2023
- ポジティブ心理学とリハビリテーション栄養 強みを活かす!ポジティブリハ栄養.2023
- 生活期におけるリハ・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル.2024