低栄養とは?
進むとどうなる?
低栄養のリスクと
原因・3つの対策

「低栄養」とは、からだを維持するために必要な栄養素が不足している状態のことです1)。1日3食の栄養バランスに気につけている人でも低栄養になる可能性はあります。低栄養が引き起こすリスクや、すぐにできる対策法をわかりやすくご紹介します。

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低栄養とは?
低栄養になる原因と
その仕組み

「低栄養」とは、からだを維持するために必要な栄養素が不足している状態です。高齢になると、噛む力や飲み込む力の低下、食欲の低下、食物をからだに取り入れる機能の低下などによって、1日3食の食事をこれまでどおり食卓に用意していても、低栄養となってしまうことがあります1)。

特に、食事の量が減ることは、たんぱく質不足やエネルギー不足につながるため、低栄養の代表的な原因の一つです。たんぱく質やエネルギーが不足すると、筋肉量が減り、筋力や歩く速度などの身体機能が低下しやすくなります。また、活力を持って毎日を過ごすのが難しくなり、活動量が減ってしまいます1)2)3)4)5)
そうして消費エネルギーが減ると、食欲が低下し、さらなる食事量の減少につながります。このような悪循環を繰り返して、徐々に低栄養状態が進んでいきます3)

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低栄養になるとどうなる?

低栄養状態が続くと、内臓や筋肉に貯蔵された糖質や脂質、たんぱく質がからだを維持するために使われ、からだにさまざまな影響を与えます1)2)3)4)6)

  • 体重が減少する
  • 筋肉量や筋力が低下する
  • 疲れやすくなり、元気がなくなる
  • 歩くのが遅くなる
  • 食欲がわかない
  • 噛む力、飲み込む力が低下し、誤嚥が起こりやすくなる
  • 床ずれなどの傷が治りにくくなる
  • 転倒しやすくなる
  • 免疫力が低下して、感染症にかかりやすくなる
  • 腹部や下半身がむくむ
  • 歩くのが遅くなる
  • 噛む力、飲み込む力が低下する
  • 転倒しやすくなる
  • 不調を感じる
  • 治りが遅い

低栄養状態は、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームにつながることもあります3)7)8)

  • サルコペニア7)
    サルコペニアは、筋肉量が減り、筋力やからだの機能が低下した状態です。
  • フレイル9)
    フレイルは、加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態で、要介護の前段階と位置づけられています。身体的機能のほか、認知機能の低下などもみられることがあります。
  • ロコモティブシンドローム10)
    ロコモティブシンドロームは、運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態です。
>サルコペニアとは?フレイルとの違いは?特徴や対策方法

たんぱく質不足すると
どうなる?

たんぱく質の摂取量が少ないと、筋力の低下に繋がります。
筋力が低下すると、噛む・飲み込む力の低下、身体機能の衰えによる活動量の低下などにより、食欲も食事量も減少します。
高齢者はたんぱく質の摂取量が不足しがちなので特に積極的に摂るようにしましょう1)3)4)

摂取カロリー不足すると
どうなる?

食事のカロリーが不足している場合も、たんぱく質不足と同じように筋力低下につながり、摂取カロリーが活動量に対して不十分であれば、体重は減少します4)6)
50~60歳代に健康のためダイエットを心がけていた方が、70~80歳代になっても同じように摂取カロリーを控える事は、かえって健康によくないため、注意しましょう11)

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高齢者と若年層の
低栄養になる原因と割合

高齢者と若年層では、低栄養になる原因が異なります。

高齢者

  • 高齢者の低栄養の主な原因
    加齢による噛む力、飲み込む力、食欲、消化機能などの低下1)
  • 高齢者の低栄養の割合
    厚生労働省の国民健康・栄養調査報告によると、65歳以上の低栄養傾向の人(BMI20以下)の割合は、男性では12.4%、女性では20.7%となっています12)
    高齢であるほど、また要介護度が上がるほど、低栄養の割合は増える傾向にあります1)

若年層

  • 若年層の低栄養の主な原因
    過度なダイエットや偏食、ストレスによる食欲不振など1)5)
  • 若年層のやせの割合
    厚生労働省の国民健康・栄養調査報告によると、20歳以上の「やせ」の人(BMI18.5未満)の割合は、男性では3.9%、女性では11.5%となっています12)
    特に20代女性の「やせ」の割合が20.7%と高いことが問題となっています12)

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低栄養を対策する
3つのポイント

低栄養の大きな原因の一つは食事量が減ることです4)。食事量を減らさないためには、活動量を増やして食欲を上げることや、活動するための筋肉を維持することが必要です2)3)
しかし、加齢によるからだの変化には防ぎきれない部分もあり、思うように活動できないこともあるかもしれません。食欲がなく、少量しか食べられない場合であっても、自身に合った食事の内容や摂り方を意識すれば、十分な栄養を摂ることができます2)

①食生活見直し・
バランス
いい食事を意識

低栄養予防のためには、まず体重やBMIを習慣的に把握し、自身の栄養状態を知ることが大切です2)4)。短期間で体重やBMIの急激な減少が見られた場合は、病院の受診や食生活の見直しといった早期の対応が必要となってきます。
また、栄養状態に問題がないとしても、日ごろから食事の回数を減らさないよう注意し、各食品群からバランスよく食べる意識を持ちましょう2)
>低栄養の食事アレンジ方法について

②たんぱく質の多い食材を取り入れる

食の細い方は、主菜を先に食べたり、シチューなど、調理で加水する際に牛乳やスキムミルク、豆乳を加えたり、間食として肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などを使った軽食や洋菓子を選んだりするとよいでしょう。
食欲がない場合には、とりあえず好物を中心にエネルギーだけは確保するようにしたり、市販の栄養補助食品などを活用して効率よくたんぱく質やカロリーを摂取するといった工夫も大切です2)

③間食などで食事の量を増やす

食欲が低下した高齢者の食事量を確保するためには間食や補食を挟むとよいでしょう2)4)。高齢者の食事はやわらかくて食べやすいものに偏りやすく、たんぱく質やビタミン、カルシウム・鉄・亜鉛などのミネラル、食物繊維が不足する傾向があります。
間食や補食に市販の栄養補助食品を取り入れて不足しがちな栄養を補うこともおすすめです2)4)

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低栄養の指標と
低栄養状態チェックリスト

高齢者が低栄養になる主な原因としては、まず、加齢に伴って味やにおいを感じにくくなり食欲も落ちやすくなる、噛む力や飲み込む力が弱まるといったからだの状態の変化により、食事量が減少・エネルギーが不足することが挙げられます。
からだが思うように動かなくなって運動不足になったり、やわらかくて食べやすいものばかりを選んでしまい栄養が偏りがちになる方もいます。
そのほか一人暮らしなどの理由で栄養バランスのとれた食事が用意できないなどの社会的な要因もあります1)3)

あなたはどう?低栄養の状態チェックリスト

低栄養の状態
チェックリスト

低栄養になっているかどうかをチェックするには、以下のような点が目安となります。

  • 意図せず5%以上体重が減った13)
  • BMIが低い
    (70歳未満で18.5以下、70歳以上で20未満)13)
  • 筋肉量が減った13)
  • むせやすくなった1)
  • 食事に時間がかかるようになった6)
  • 歩行速度が遅くなった、
    ふらつくようになった3)
  • 元気がなくなった、
    会話が少なくなった6)
  • 下半身や腹部がむくみやすい6)
  • 血中のアルブミン値が低い
    (3.8g/dl以下)4)

指輪っかテスト

筋肉量が減っているかどうかを簡単にチェックできる「指輪っかテスト」もおすすめです14)。両手の人差し指と親指で輪っかを作り、利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分に当てて、囲めるかどうかをチェックしてください。隙間が大きいほど、低栄養に注意が必要です。

  1. 両手の親指と
    人差し指で輪を
    作ります。

  2. 利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分を力をいれずに軽く囲んでみましょう。

  • 囲めない

  • ちょうど囲める

  • 隙間ができる

血液検査

医療機関などでは栄養状態の指標として、血液検査の血清アルブミン値が用いられています6)15)。血清アルブミンは、血液に含まれるたんぱく質の一種で、食べ物由来のたんぱく質の量が反映されます6)。ただし、血清アルブミン値は栄養状態以外の要因にも大きく影響を受けるため、単独ではなく、問診票などと併せて栄養状態の判断に用いられます6)15)
気になる症状がみられたら、医療機関に相談して必要に応じて検査を受けましょう。

監修

鷲澤 尚宏先生
(わしざわ なおひろ)

  • 東邦大学医療センター大森病院栄養治療センター部長、栄養部部長
  • 東邦大学医学部臨床支援室教授

略歴

1986年
東邦大学医学部卒業、東邦大学医学部外科学第一講座入局
2002年
米国エモリー大学リサーチフェロー
2009年
東邦大学 医学部 外科学講座准教授、東邦大学医療センター大森病院 栄養治療センター部長
2012年
東邦大学医療センター大森病院 栄養部部長
2016年
東邦大学医学部臨床支援室教授

所属学会および役員

日本臨床栄養学会理事・評議員、日本臨床栄養協会日本サプリメントアドバイザー認定機構副理事長、日本臨床栄養代謝学会理事・代議員、日本外科代謝栄養学会評議員、日本臨床外科学会評議員、日本臨床腸内微生物学会理事、日本PTEG研究会会長、PEG在宅医療学会代議員、Patientドクターズネットワーク(PDN)理事、日本在宅静脈経腸栄養研究会世話人

取得認定医専門医

  • 日本臨床栄養代謝学会認定医、指導医
  • 日本臨床栄養学会認定臨床栄養指導医、臨床栄養医
  • 日本外科学会専門医
  • 日本がん治療認定医機構認定医
  • 日本消化器内視鏡学会指導医、専門医
  • ICD協議会認定インフェクションコントロールドクター
  • 日本大腸肛門病学会指導医、専門医
  • PEG在宅医療研究会認定胃瘻造設者、認定胃瘻教育者、専門胃瘻管理者
  • 日本PTEG研究会暫定認定造設者