【簡単】
高齢者が食欲不振
食べないときに
試したい3つの改善策

管理栄養士が教える高齢者の食べる量が減った、食事を摂ってくれないときに活用したい改善方法をご紹介します。高齢者の中には、食欲不振になると健康維持が難しくなる人もいます。食欲不振の原因を理解し、食事方法や食材などの工夫で少しずつ食欲が戻るような対策をとることが重要です。

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食欲不振が
続いた場合リスク1)2)3)

長期的に食欲不振が続いて食事量が減り、体重減少がみられる場合は、健康的に生きるために必要な量の栄養素が十分摂れていない「低栄養」の状態になっているかもしれません。低栄養の状態が続くと、体重減少のほかにも、筋肉量や筋力が低下する、疲れやすくなり元気がなくなるなどの症状があらわれます。低栄養が進むと健康維持が難しくなるリスクが高まるため、早めに気づいて栄養状態を改善することが大切です。

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高齢者が
食欲不振になる原因

高齢者が食欲不振になりがちなのは、加齢、環境、病気、精神的要因など複数の原因が考えられます。どうすればご本人の食欲を引き出すことができるのか、周囲の方が協力して考え、対応することが大切です3)

加齢による食欲不振1)3)4)

高齢になると消化吸収能力が低下するほか、噛む力や飲み込む力といった嚥下機能が低下します。消化能力が低下すると、消化不良を起こしやすくなり、ステーキや豚の角煮、揚げ物など高エネルギーの食べ物が食べられなくなることがあります。また、すぐにおなかがいっぱいになってしまい、食事量も減りがちです。嚥下機能の低下は固いものが食べにくい、食べ物をこぼす、食事中にむせてしまうといった状態を引き起こし、食欲不振に結びつきます。
さらに、加齢により体力が低下して運動不足になること、筋肉が減って消費するエネルギーが減少することも食欲不振につながります。また、視覚や嗅覚、味覚の低下も食欲に影響します。

ストレスによる食欲不振3)5)

高齢になると、さまざまな要因でストレスがかかり、食欲不振につながります。
例えば、家族が減ってしまったことや親しい人が亡くなったことによる孤独感や不安感がストレスになり食欲が低下することがあります。特に独りでの食事は食欲が低下し、食事量が減りがちです。
一方で、息子夫婦との同居や介護職によるサービスもストレスになることがあります。介護する人に食事の好みをうまく伝えられないなど、関係がうまくいっていないと、食欲不振に結びつきます。

病気による食欲不振3)4)

高齢になると、高血圧や脂質異常症などさまざまな持病を持っている方が多くなってきます。このような持病のために飲む薬の副作用などで食欲が減退することがあります。また、便秘や下痢、かぜなどの体調不良も食欲不振の原因です。
そのほか、認知症やうつ病などの病気による食欲不振の可能性もあります。

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「少しだけでもいいから食べて」はNG

高齢者の食が細くなると、からだが弱ってしまうのではないかと心配になるかもしれませんが、もっと食べるように繰り返し促したり、食べきれなかったときに「残しちゃったの?」というような声かけをしたりすることは、大きな負担となり、ますます食欲の減退につながります。負担を感じさせないように配慮したいものです。
高齢者のプレッシャーにならないような食欲回復の工夫をご紹介します。

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食欲不振なときに試したい
3つの改善法

1. 調理に一手間加えて食欲を高める

少量を盛り付ける
食欲がないときにたくさんの料理が目の前に並ぶのは、食事に義務感が出てプレッシャーになりやすいものです。少なめに盛り付け、食べきれるよう品数も少なくします。もっと食べられるようなら、次の料理を追加するようにします。
手でつまめるメニューをプラス
食具を使うのもおっくうになりがちです。ひと口大の小さなおにぎりや、海苔巻き、小さめのカステラやサンドイッチなど、手でつまめる料理を試してみるのもよいでしょう。
水分摂取を促す
食欲がないときは、脱水になりがちです6)。また脱水が原因で食欲が落ちることもあります7)
味噌汁や野菜スープに手をつけられたら、他の料理にも手が伸びることもあります。意識して水分摂取を促すようにしましょう。また、汁物に加え、ゼリーやプリン、ヨーグルト、アイスクリーム、果物などを食べることでも水分を摂取できます。

このほか、香りや酸味を利用して食欲を刺激する、漬物などを添える、1品は味付けを濃くするなど味にアクセントをつける、食べやすいようにカットするなどといった工夫もおすすめです。

2. 環境を少し変えて食欲を高める

食事をする環境をいつもと変えてみましょう。
例えば家族や介護する方と、あるいは仲の良い人を招いて、楽しい雰囲気で一緒に食卓を囲むと食欲が高まることがあります。外食をするなど場所を変えてみるのもよいでしょう。
食事の際に音楽をかけてみる、盛り付けや味見など食事の準備を手伝ってもらい料理の音や香りを感じてもらう、料理の彩りを工夫する、ランチョンマットを暖色系や黄色など食欲を刺激する色に変えてみるなど、五感から食欲を刺激する工夫もおすすめです。

3. 食べられそうなものを予め準備する

食欲がないときは、喉越しが良く消化の良いもの、冷たくてさっぱりしたものなどが好まれます。おかゆ、雑炊、お茶づけ、うどんやそうめん、茶碗蒸し、プリン、ヨーグルト、ゼリー、柑橘系以外の果物、などは消化が良くておすすめです。
どんなものが食べられそうかをご本人にヒアリングし、食べたいときにすぐ食べられるよう、作り置きや冷凍保存などで常備しておくとよいでしょう。
食欲がないときは食べることを考えることさえ負担になります。ご本人にヒアリングする際には、「何か食べたいものはある?」というような広い質問でなく、「プリンとうどんならどっちが食べられそう?」など、答えやすいように質問を絞るとよいでしょう。カタログやチラシなどの絵や写真を見せながら「コレなら食べられそう?」と聞いてみるのもおすすめです。

>少量で栄養価の高い食べ物とは?

一人暮らしの
高齢者向けの工夫

一人暮らしをしている高齢者が食欲不振になった場合、遠方に住んでいる家族にできる工夫としては次のようなことが挙げられます。
まめに連絡することが可能であれば、なるべくビデオ通話で顔を合わせるようにしましょう。そして地域のサークル活動や共食を楽しめる場など、ご本人の生活の張りになるような情報を提供するのもよいでしょう。無理のない範囲でからだを動かしたり、趣味を楽しんで活動量を増やしたりすると、気分が変わって食欲がわくこともあります。
ご本人の食べられそうなものを送りたい場合は、保存の利く調理済み食材を選びましょう。例えば、肉・魚・フルーツ・ポタージュスープなどの缶詰、一人分の惣菜のレトルトパックや冷凍食品、肉そぼろや鮭フレークなどご飯に合うたんぱく質の摂れる食品、野菜ジュースなど手軽に栄養が摂れる飲みものなどが考えられます。見守りつきの宅配弁当サービスなどを利用するのもよいでしょう。
ご本人の状態によって、デイサービスや訪問看護などの利用も検討しましょう。

高齢者の食が進まないときは、食べることがストレスにならないようゆったりとした雰囲気づくりを心がけ、周囲の方で協力しながら、少しずつ食べるなどの食事の工夫や食事する環境を変えるなどの方法を試してみましょう。また、個々の噛む力や飲み込む力を考慮した食事形態の工夫が必要なこともあります。低栄養にならないよう気をつけ、少量で不足しがちな栄養を補える栄養補助食品などを上手に活用するのも一つの方法です4)

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