高齢者の
低栄養状態とは?
原因と確認・
対策方法を紹介
高齢者の低栄養は本人も周囲の人間も気づきにくいため、生活の中で確認・対策する必要があります。今回は、低栄養状態とされる基準やからだに表れる変化・動作を一覧でご紹介します。また、低栄養につながる原因や、対策のための食事のポイントもご紹介します。
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低栄養状態な人の特徴とは?
低栄養とは、栄養障害の一種で、からだの維持に必要な栄養素が欠乏している状態です1)。食が細くなりゆっくりと進んだり、病気で急速に進んだりします1)。国際的な診断基準のGLIM criteriaでは、低栄養の症状とは、
- 意図せずに体重が5%以上減少
- BMI(アジア)が70歳未満で18.5以下、70歳以上で20未満
- 筋肉量減少
としています2)。
栄養が不足すると、肝臓や骨格筋に蓄えられていた糖質がまず使われますが、蓄えはわずか約1日分1)。次に脂質やタンパク質が使われ、その結果筋肉が減ってしまいます1)。筋力が低下すると、噛む力・飲み込む力も弱くなり、咳き込む力も弱くなるので、誤嚥性肺炎のリスクが高まります1)。低栄養のサインを見逃さず、早期に対策をすることが大切です1)4)。
第三者から見て分かる
からだに表れる特徴
- 歩ける距離が減った、横になっている時間が増えた4)
- 肩や足を触ると皮膚の下にすぐに骨格を感じる(筋肉や脂肪の減少)4)
- 疲れやすい4)
- 表情が乏しい、発語が少ない4)
- 腹部や下肢のむくみ4)6)
- 皮膚や口の中の乾燥など4)
高齢者本人が感じる
心やからだの変化や特徴
- 疲れやすい4)
- 食欲がない、食べにくい1)4)5)
- 口の中がよく乾く4)
- 便秘4)
- 腹部や下肢のむくみ4)6)
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低栄養状態を確認する方法
低栄養状態を確認できる方法として、体重や食事量、水分摂取量のチェックがあげられます4)。また、BMIも低栄養状態の傾向や痩せすぎを判断できる指標として利用できます4)5)7)8)。医療機関では、血液検査で血清アルブミン値を指標に、タンパク質が不足していないか調べます4)7)。また、問診票を用いて栄養状態を評価する方法もあります4)。
体重
体重の変化は、低栄養状態を早期に発見するために重要な記録です2)4)。体重は、元気なうちから記録を開始し、週1回定期的に測定するとよいでしょう4)。また、月ごとに確認し、体重が減っていたら、すぐに増やす対策を取りましょう4)。体重が減るということは、十分な栄養が取れていないということです4)。
いつもの食事で、1日に2kgも体重に増減がある場合は、むくみ(浮腫)の可能性があります2)6)。むくんでいる部分は、10秒ほど強く指で押し付けるとへこみができるので、肥満と区別ができます6)。
BMI値
BMIは体格の指標ですが、栄養状態の指標としても利用できます4)7)。
BMIの計算式は、
BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)2
です4)7)。例えば、身長156cm、体重55kgの人のBMIは、[55÷1.56÷1.56=22.6002]で算出され、BMI値は22.6です。
BMI値18.5未満は低栄養、21.5未満は低栄養リスクとされます4)。BMI値20以下は、低栄養傾向とされ、要介護や総死亡リスクが統計的に高くなる値といわれています8)。
血液検査
医療機関などで行われる血液検査では、血清アルブミン値が栄養状態の指標として用いられます4)7)。血清アルブミンは、血液に含まれるタンパク質の一種で、食べ物由来のタンパク質の量が反映されます4)。基準値は、3.7~5.5g/dlで、3.5g/dl未満は低栄養と判断されます4)。ただし、血清アルブミン値は栄養以外の要因にも大きく影響を受けるため、単独で栄養状態の判断に用いられることはありません4)7)。
からだの変化
ふくらはぎの太さ、握力、食欲や倦怠感の有無も、定期的に評価し記録することが大切です2)。ふくらはぎの太さは、指輪っかテストと呼ばれる、両手の人差し指と親指で輪っかを作り、利き足でない方のふくらはぎを測るテストが用いられます9)。ふくらはぎがこの輪っかより細いと、低栄養の可能性が高くなります9)。握力は、ペットボトルのふたが開けられるかなどでチェックできます2)。
質問票
世界的に用いられている「簡易栄養状態評価表」(MNA; Mini Nutritional Assessment)や、実施者の職種による評価のずれが少ない「簡易栄養状態評価表ショートホーム」(MNAⓇ-SF)などがあります4)。
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高齢者の低栄養対策
低栄養の対策で重要なことは、低栄養のサインを見逃さないことです4)。体重の変化、食生活、日常生活もしっかりと見ていきましょう4)。
食事の改善
高齢者がどんなものをどのように食べているかチェックしましょう4)。食べにくかったり、食の好みが偏ったりしていると、食事量が減り、栄養が足りていない場合もあります4)。食事の内容が高齢者の噛む力・飲み込む力に合っているかチェックし、その人に合った食事を用意し、食事を楽しんでもらうことが、低栄養対策につながります4)。
また、高齢者の食事は、やわらかく食べやすいものに偏り、特にタンパク質やカルシウム、鉄などのミネラル類、ビタミン類、食物繊維が不足する傾向にあります6)。高齢者が食べやすく栄養豊富なメニューを積極的に取り入れましょう4)。
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食生活の改善
一度にたくさん食べるのが大変な場合は、1日3食にこだわらず、回数を増やすのもおすすめです4)。栄養豊富な間食や栄養補助食品を活用して栄養を補いましょう4)6)。また、体調に問題がなければ、軽い運動をすると食欲が増しますよ5)。
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低栄養になる原因とは?
高齢者が低栄養に陥るきっかけはさまざまです4)。高齢夫婦のみや高齢者単独世帯、足腰の機能低下、運転ができなくなることによって食事の準備が難しくなる場合や、ストレスといった精神的要因、不規則な生活、孤独感といった社会的な要因、栄養知識の不足、などいろいろなことが原因となります4)7)10)。また、加齢による、食べることに関するさまざまな機能(口腔機能、視覚、味覚、嗅覚、消化機能)の低下も、食事量の減少を招き低栄養につながります4)7)10)。
低栄養を対策するには、からだの状態の現状と変化を把握し、素早く対応することが重要です2)4)。高齢者が食べやすいバランスの良い食事を心がけ、食事を楽しみながら十分な栄養を確保しましょう2)4)5)。