嚥下食えんげしょくとは?
分類別の
食事例や作り方、
調理ポイント・注意点

嚥下食(えんげしょく)とは、高齢などによって飲み込む力が衰えた人に合わせて食材のとろみ、食感、形態を調整した食事です。嚥下訓練食も含め嚥下食と呼ばれています。ここでは嚥下食について学会が定めた基準や分類、食材や調理ポイント・注意点を紹介します1)

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嚥下食(嚥下調整食)とは?

嚥下食(えんげしょく)とは、嚥下機能が低下した人に配慮して、やわらかさや形態を調整した飲み込みやすい食事です。日本摂食・嚥下リハビリテーション学会では「嚥下調整食」と呼んでいます。食材をやわらかく調理し、ミキサーなどでペースト状にし、さらにはゼリー状にするなど、嚥下食にはそれぞれの摂食・嚥下の機能に応じた段階があります1)2)
嚥下食に段階別の分類が設けられるようになったのは、摂食・嚥下機能が弱った人に対して、施設や病院で適切な形態の食事を提供するために、客観的な基準が必要だったからです。日本で用いられている分類はいくつかありますが、例えば「嚥下食ピラミッド」は、長年試行錯誤が重ねられ、病院における臨床研究から作成された基準で、施設や病院での食事提供に活用されています2)

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嚥下食(嚥下調整食)の
分類
とは

「ムース」や「ペースト」といった言葉で分類すると、人によって思い浮かべる食形態が違う場合があるので、分類名がコード番号になっています1)

嚥下食の分類「学会分類2013」1)

コード0(嚥下訓練食品)

コード0は摂食・嚥下機能が重度に低下している場合に用いられる食品です。主に食事の場面でなく嚥下の訓練を始める場面で利用されるため、コード0だけは「嚥下調整食」ではなく「嚥下訓練食品」とされています1)
コード0は、0jと0tにさらに分けられます。jはゼリー状、tはとろみ状を意味しています1)

コード0j(嚥下訓練食品j)

なめらか(均質)で、べたつかず、まとまりがよく、やわらかい、離水が少ないゼリーです。スプーンでスライス状にすくうことが簡単にできて、ばらばらにならず、噛まずに丸のみできるもの、誤嚥した場合を考え、たんぱく質をほぼ含まないものが望ましいとされます1)
食品例)お茶ゼリーや果汁ゼリー、市販の嚥下訓練用のゼリー1)

コード0t(嚥下訓練食品0t)

均質で、べたつかず、適度な粘度のとろみがあり、まとまりのよい、スプーンですくってそのまま飲み込めるとろみ状のものです1)
食品例)お茶や果汁にとろみをつけたもの1)

コード1j(嚥下調整食1j)

コード1以上は嚥下調整食と呼ばれます。
コード1は均質でべたつかず、まとまりがよく、やわらかなゼリー、プリン、ムース状のもので、たんぱく質が含まれていてもよいとされています。対象となるのは、食べ物を噛み砕き飲み込みやすい塊(食塊)にする力が弱く、嚥下機能が低下しているものの、スプーンですくうときに厳密にスライス状にしなくても飲み込める程度の人です1)
食品例)卵豆腐、重湯ゼリー、ミキサー粥のゼリー、介護食として市販されているゼリーやムース1)

コード2(嚥下調整食2)

コード2は、ピューレ、ペースト、ミキサー食など、べたつかず、まとまりやすいもの、スプーンですくって食べることが可能なものです。噛む力は不要ですが、口の中に入れたものを広げずに喉に送り込める程度の嚥下機能を持つ人が対象です1)

コード2-1

コード2の中でもなめらかで均質なものは2-1とされます1)
食品例)粒がなくべたつかないペースト状の重湯や粥1)

コード2-2

コード2の中でもやわらかい粒などを含む不均質なものは2-2とされます1)
食品例)やや粒があるがやわらかく離水もなくべたつかない粥、温泉卵1)3)

コード3(嚥下調整食3)

コード3はやわらか食、ソフト食ともいわれている嚥下食です1)
歯や義歯がなくても舌でつぶして食塊にでき、舌で喉に送り込め、コード2対象の人よりも広い範囲の食品を誤嚥せずに飲み込める人を対象にしています。必ずしもミキサーにかけて均一にしなくてもよいとされるレベルですが、やわらかく、また飲み込みやすく調理されている必要があります1)

食品例)煮込みハンバーグ、あんかけをした大根の煮物、卵料理など(どれも普通の料理よりやわらかく仕上げたもの)、かためのゼリー、三分粥、五分粥、全粥(水分がサラサラにならないよう配慮したもの)1)

コード4(嚥下調整食4)

コード4は、嚥下の機能や噛む力の低下が軽度な人向けに、素材や調理方法を配慮した食事です。硬すぎず、ばらばらになりにくく、貼りつきにくく、箸やスプーンで切れるやわらかさです。軟菜食、移行食と呼ばれるものもコード4に入り、要介護高齢者への食事に近いですが、誤嚥防止に配慮されたものである必要があります1)

食品例)軟飯、全粥、素材に配慮された煮込み料理、卵料理1)

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嚥下食に向かない食品と
調理ポイント・注意点

次のような食品は飲み込みにくいので嚥下食には向きません。特に好物でなければ食べないようにするか、調理に工夫をするようにしましょう2)4)5)

  • 硬くて噛みにくいもの(例:ナッツ、ごま、肉)
  • ポロポロしてまとまらないもの(例:ナッツ、トウモロコシ)
  • べたべた、ペラペラして喉にはりつきやすいもの(例:餅、だんご、のりなど)
  • パサパサして水分の少ないもの(例:パン、ゆで卵の黄身など)
  • サラサラした水分

調理のポイント

食べにくい食材については、刻んだりミキサーにかけたりした後に、ゼリー状、ペースト状にする、あんかけでまとめるなど、やわらかく、まとまりをもつように調理します4)5)
サラサラとした水分はむせやすいので、とろみをつけたり、ゼリー状にしたりします2)

とろみをつける際には、市販のとろみ剤(とろみ調整食品)を利用します1)。簡単にとろみをつけることができ、程度の調節もしやすく、ジュースやお茶だけでなく、味噌汁などにも使えて便利です4)

嚥下食の作り方(ゼリー状)

ゼリー状の嚥下食を作る際には、ゼラチンやゲル化剤を使用します。冷やして食べるゼリー食にはゼラチンを使い、温かいゼリー食には常温でも固まった状態を保てるゲル化剤を使います4)

コード1から食べられる「重湯ゼリー」の作り方をご紹介します。少量の重湯(粥の上澄み)に粉ゼラチンを振り入れて火にかけ、ゼラチンが溶けたら残りの重湯と合わせて器に移し、冷蔵庫で冷やします。ゼラチンを溶かすときは、固まりにくくなるので沸騰させないように注意しましょう4)

なおゼラチンゼリーはクラッシュすると離水しやすくなります。また、なかなか飲み込めずに口の中に長く入れていると溶けて液体に戻ってしまうこともあります。誤嚥につながることがあるのでゼリーの離水や溶解には注意しましょう2)
>介護食の作り方
>ミキサー食の作り方

嚥下食を与える時の注意点2)4)

しっかり目覚めていなかったり、注意が散漫になると、誤嚥のリスクが高まります。声かけをして、落ち着いて食事に集中できる環境をつくりましょう2)
食べるときの姿勢も大切です。自力で食べられる人は、かかとのつく椅子に座り、姿勢を安定させます。むせやすい人はやや前かがみであごを引き気味に、食べ物が胸につかえやすい人、逆流しやすい人は、上体を起こしたまっすぐな姿勢にしましょう。逆流しやすい人は食後もしばらく上体を起こしておくとよいでしょう4)
座れずベッドで食べる場合は、背もたれを45~60度の角度に起こして、頭の後ろにクッションや枕を置き、首がやや前に曲がるようにしておくと誤嚥が起こりにくくなります。食事の介助が必要な人の場合は30度傾斜がよいでしょう4)