咀嚼とは?
重要な役割と
今すぐできる
口腔トレーニング
咀嚼とは、口腔内で食べ物をしっかり噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて、飲み込みやすいかたまり(食塊 )にすることです。咀嚼機能の維持は生活習慣病やフレイルの対策につながると考えられています。ここでは咀嚼の必要性と理想の回数、食事中の咀嚼チェック、高齢者向けの口腔トレーニングを紹介します。
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咀嚼とは?
咀嚼とは、口に入れた食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜ合わせて、飲み込みやすいかたまり(食塊)にすることです。当たり前のように行っているかもしれませんが、顔の筋肉や舌の筋肉など、多くの器官が関わる複雑な運動です1)。しっかり咀嚼することで、唾液が分泌されやすくなるため、食べ物を飲み込む動作(嚥下 )や消化、栄養の吸収を助けます。また、あごや舌の動きが活発になるため、噛むだけでなく話す機能の維持にも役立ちます。咀嚼は脳への刺激にもなっていて、脳の血流量を増やしたり、認知機能を向上させたりするためにも大切です2)3)。
適切な口腔ケアは、高齢者の寝たきりなどのきっかけとなることがある「誤嚥性肺炎」の対策にもつながることから、口腔ケアは全身の健康維持、ひいては社会生活の充実にまで関係する、重要な役割をもつケアと言えるのです。
口腔ケアの基本となるのは、毎日のうがいや歯みがきを始めとしたセルフケアです2)。しかし、特に生活に手助けが必要な高齢の方などでは、自分の力だけで十分なケアを行ったり、口腔内の衛生状態を良好に保つことが難しいため、ご家族や介護職者によるサポートが重要になります4)。
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なぜ咀嚼が大事なの?
生活習慣病や
フレイルとの関係
子どもの頃に「よく噛んでゆっくり食べなさい」と言われた経験がある方もいるかもしれません。よく噛んで食べることの大切さを私たちは感覚的に知っていますが、最近では、その健康への意義が科学的に示されるようになってきました。例えば早食いの人は、肥満傾向にあることや成人してから肥満度が高まる傾向にあることがわかっています4)。
また、高齢になり歯を失ってしまうと、硬い食品を避けてしまいがちです。その結果、たんぱく質やビタミン、ミネラルなどの栄養摂取バランスが崩れやすくなります5)。偏った食生活に運動不足などが重なると体力や気力が弱まる「フレイル」を引き起こす可能性が高まります6)。
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理想的な咀嚼の回数は
どれくらい?
咀嚼回数は、食品の硬さや個人の噛む力などによって変わってきますが、一口あたり30回程度噛んで味わう食べ方がよいといわれています1)7)。
あなたは大丈夫?咀嚼チェック
正しく咀嚼できているか、以下のチェック項目で確認してみましょう。
チェック項目 | 当てはまるときは… |
---|---|
あまり噛まないで 食べることが多い |
噛む回数の目標を立てたり、形がなくなったら飲み込むようにしたりしましょう。 |
一口の量が多い | 丸かじりではなく、小さく分けてから食べましょう。小さいスプーンを使ったり、箸で取る量を少なくしたりしましょう。 |
食べ物を次から次へと 口に入れて食べる |
食べ物を口に入れたら箸を置き、飲み込んでから次の一口を入れましょう。 |
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今すぐできる!
口腔トレーニングで
噛む力を鍛えよう8)
❶舌のストレッチ
食べ物を飲み込みやすい性状にしたり、唾液の分泌も促したりするために、舌の動きが重要となります。まず、口を開けて舌をできるだけ出します。次に、上唇を舌で触るように上に持ち上げ、左右の口の端を舌先で触るように動かします。
-
①思いっきり舌を下に伸ばす -
②上くちびるに触れるように舌を上に伸ばす -
③舌が左右の口の端に触れるようゆっくり動かす
❷舌のトレーニング
口を閉じ、左右の人差し指をほおに当てます。舌先でほおの内側から指を押し返す動きを左右繰り返します。
❸唇のトレーニング
食べこぼしの防止や、飲み込む力を維持するために、唇の力が重要です。「うー」と言いながら口をすぼめる動きと、「いー」と言いながら口角を横に開く動きを繰り返します。
❹咀嚼筋のトレーニング
こめかみの上にある側頭筋とほおの後ろにある咬筋は、噛むための筋肉「咀嚼筋」の代表的なものですので、鍛えておくことが大切です。まず、「あー」と声を出しながら口をできるだけ大きく開けます。次に、舌を上あごに押し付けて、奥歯で噛みしめながら「んー」と声を出します。これを3回繰り返します。
監修
ふれあい歯科ごとう代表/博士(歯学)
五島 朋幸先生
(ごとう ともゆき)
- 日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授
- 日本歯科大学東京短期大学歯科衛生士科講師
- 東京医科歯科大学非常勤講師
- 慶応義塾大学非常勤講師
- 新宿食支援研究会代表
- 株式会社WinWin代表取締役
経歴
- 1965年
- 広島県安芸郡府中町生まれ
- 1984年
- 安芸府中高校卒(第2回生)
- 1985年
- 日本歯科大学歯学部入学
- 1991年
- 同大学卒(80回)臨床研修医
- 1992年
- 臨床研究生
- 1993年
- 日本歯科大学歯学部歯科補綴学教室第1講座助手
- 1997年
- 訪問歯科診療に取り組み始める
- 2000年
- 医療法人社団星秀会理事・在宅診療部代表
- 2003年
- ふれあい歯科ごとう代表 現在に至る