口腔ケアとは?
なぜ高齢者はケアが必要?
ケアの目的基本手順

口腔ケアとは、虫歯や口内炎、誤嚥対策に加え、心身の健康を維持または増進させるケアのことです。口の中を清潔にすることで心地よさや爽快感が得られるだけでなく、生活の質(QOL)の向上や全身の健康維持・向上につながります。口腔ケアの目的や手順をわかりやすく解説します。

1

口腔ケアとは?
なぜ口腔ケアが必要なの?

口腔ケアとは、口の中の清潔を保つことで、さまざまな口の中のトラブルを防ぐことに加え、食べたり会話したりする機能(口腔機能)の維持・回復、ひいては全身の健康や生活の質(QOL)の向上を目的に行われるケアの総称です。

「口の中の清潔が、全身の健康にも影響するの?」と少し意外に思った方もいるかもしれません。口腔ケアによって得られるメリットは、単に心地よさや爽快感だけではなく、以下のように実にさまざまな側面があります。

口腔ケアによって得られるメリットの例1)2)3)
  • 口腔内細菌を減少させる
  • 口腔内の爽快感が得られる、口臭対策
  • 口腔内のトラブル対策
  • 唾液の分泌促進、味覚の維持
  • 口腔機能の維持・改善(飲み込みの機能向上など)
  • 味覚の回復、食欲の向上
  • QOLの向上(表情が豊かになり、会話や食事が楽しめる、社会参加が促進される)
    など

適切な口腔ケアは、高齢者の寝たきりなどのきっかけとなることがある「誤嚥性肺炎」の対策にもつながることから、口腔ケアは全身の健康維持、ひいては社会生活の充実にまで関係する、重要な役割をもつケアと言えるのです。

口腔ケアの基本となるのは、毎日のうがいや歯みがきを始めとしたセルフケアです2)。しかし、特に生活に手助けが必要な高齢の方などでは、自分の力だけで十分なケアを行ったり、口腔内の衛生状態を良好に保つことが難しいため、ご家族や介護職者によるサポートが重要になります4)

2

加齢とともに変化する
口腔内環境お口のトラブル

口の中は、細菌などの微生物が好む環境(温度・湿度・食べかすなどの栄養成分)が揃いやすいことから、もともと良好な状態が保たれにくい場所です1)
特に年齢を重ねると、自浄作用をもつ唾液の分泌量が減ったり、あるいは体の一部が不自由になったりして、自力での口腔ケアが不十分となり、さらに清潔な状態が保たれにくくなることから、歯の不具合や口腔内のトラブルが多くなることがあります。

3

口腔ケアで
お口のトラブル対策

口腔ケアが適切に行われることで、具体的にどのようなことが期待できるか、改めてまとめてみると、次のようなことが挙げられます2)3)5)

口腔機能の維持・回復に役立つ

口腔内の乾燥が緩和されることで味覚が維持されやすくなったり、入れ歯の安定化が図られるなど、食べる・話す機能(口腔機能)の維持・回復につながります。

全身の健康維持に役立つ

適切な口腔ケアによって、飲み込みの機能が向上し誤嚥性肺炎のリスクを減らすことができます。

食事や会話が楽しくなる

適切な口腔ケアによって口腔機能が良好に保たれると、食事や会話をするうえでの支障が減り、それらをより楽しめるようになります。他者とのコミュニケーションが円滑になり、生活の質(QOL)の向上につながります。また、しっかり噛んだり、会話を楽しむことは、脳へのよい刺激にもなります。

4

ケア前に確認したい
口腔ケア4つのポイント

セルフケアによる口腔ケアの基本は「うがい」「歯みがき」「舌や粘膜のケア」です。実際に行う際には次のような点に配慮し6)、確認するようにしましょう。

いつ?(口腔ケアのタイミング)
口腔ケアは、基本は細菌を除去することです。もっともお口の中に細菌が多いのは起床時です。そのタイミングでしっかりケアすることが重要です。その他、毎食後だけでなく、食前に実施することで、口腔ケアを「安全に食事を摂るための準備体操」として活用することもできます。口腔ケアのタイミングや回数に確たる決まりはありません1)から、日々の生活リズムのなかで、どのようにしたら安全・快適に効果的なケアが行えるか、柔軟に検討しましょう。
どこで?(ケアを行う場所)
その方の身体状況によって、洗面所で行う、居室で行う、ベッド上で行うなど、さまざま考えられますが、いずれの場合も、誤嚥しにくい安全で安楽な姿勢や体位をとることが大切です。座位や半座位は誤嚥しにくい体位であるとされます。顎を引いてやや前屈した姿勢をとるようにするとなおよいでしょう。
だれが?(自分で行えるか、介助が必要か)
口腔内の状態や全身の健康状態を確認し、自力で行えるのか、家族や介護職者が主体となって行うのか、などを検討しましょう。
どのように?(具体的な手段)
どのような口腔ケア用具を使用するか、介助が必要な場合はどの程度かなど、手段についても考えてみましょう。
ケアに時間をかけすぎない、不快感を与えないといった基本的な配慮についても改めて確認しましょう。

5

口腔ケアを始める前の
準備と基本手順

それでは、実際の口腔ケアについて、その準備と基本手順を紹介していきます1)3)6)

準備するもの

口腔ケアによく使用される用具を紹介します。もちろん、これらをすべて揃えなければならないわけではありません。

歯ブラシ
歯に付着した歯垢の除去に用います。高齢の方の場合、歯や歯ぐきが弱くなっていることがあるので、軟らかめの歯ブラシを用いるのがよいでしょう
入れ歯専用ブラシ
さまざまな形状のものがあります。通常の歯ブラシよりも清掃能力が高いので積極的に利用しましょう。
デンタルフロス(歯間ブラシ)
歯と歯の間の清掃に用います。
粘膜用ブラシ
食べかすなどを取り除いたり、粘膜の清掃などに用います。
舌ブラシ
舌の清掃に用います。
コップ
うがいをしたり、歯ブラシをゆすいだりするのに用います。
ガーグルベーズン
うがいをした水を吐き出すための容器です。
ディスポーザブル手袋
介助者は、感染予防のため必ず手袋を着用しましょう。

これらのほかにも、口腔ケア専用のウェットティッシュや誤咬防止器具(誤って介助者の手を咬まれないようにするための用具)など、さまざまなケアグッズが市販されているため、その方に合ったケアができるよう、歯科医師や歯科衛生士などの専門家とも相談して用具を選択していきましょう。

実践 口腔ケアの基本手順と注意点

口腔ケアグッズの使用法は
歯科医師・歯科衛生士の指導を
受けましょう。

  • 歯ブラシ
    • ❶包帯・ガーゼなどを巻く
    • ❷ホースの利用
    • ❸割り箸などを足して、
      ビニールのエアクッションなどを巻く
    • 小さめのブラシを選び、毛先が開いてきたら交換しましょう。
    • 自分でみがけても、握力がない時は柄を太く(❶❷)、口先まで届かない時は柄を長く()してみましょう。
  • 入れ歯専用ブラシ
  • デンタルフロス(糸ようじ)
  • 舌ブラシ
  • 歯間ブラシ
  • スポンジブラシ
  • 電動歯ブラシ
  • ガーグルベーズン

    うがいをした水を吐き出すためのガーグルベーズンがなければ、ペットボトルの側面をくりぬいた物でも代用できます。

基本手順1)3)6)

日常の口腔ケアの手順

  1. ❶うがい

    はじめに、うがい(ブクブクうがい)をします。

  2. ❷口唇・口腔内の湿潤

    乾燥が顕著な場合は、指やスポンジブラシ等を用い、ジェルまたは少量の水分で口腔内を湿らせます。

  1. ❸歯の清掃

    歯ブラシで清掃します。

  2. ❹歯の清拭

    専用のウェットティッシュ等で歯と粘膜を清拭します。上の歯の外側から内側、上あごを奥の方から拭き取ってから、下の歯をなぞり、残存物等を拭き取ります。

  3. ❺舌苔の除去

    舌ブラシで力を入れず、奥から手前に優しく動かします。乾燥している場合はジェルや水で湿らせてから行います。

  1. ❻うがいによる残存物の除去

    うがいができる場合には、口腔内を湿らせ、残存物などを洗い流します。うがいができない場合は、必要に応じて残存物や唾液をウェットティッシュで除去するか吸引を行います。

  2. ❼口唇・口腔内の湿潤

    乾燥を対策するために、口腔内全体に薄くジェルを塗ります。湿潤させてからウェットティッシュ等で拭き取るか、吐き出してください。

うがい
  • 口腔ケアのはじめと終わりには、うがい(ブクブクうがい)をします。
  • うがいができない場合には、スポンジブラシや口腔用ウェットティッシュなどを用いて痰や食べかすなどの汚れを取り除きます(口腔清拭)。
  • 水を多く口に含むとうまくうがいができなかったり、誤嚥をまねくことがあります。適量口に含むようにしましょう。
歯みがき(ブラッシング)
  • 歯がある方は、歯ブラシによる歯みがきを行います。
  • 歯ブラシをペングリップ(ペンを持つように歯ブラシを持つ)で握ります。
  • 歯と歯ぐきの境目に歯ブラシの毛先を当て、歯と歯の間に毛先をソフトにフィットさせるイメージで小刻みに動かし、1~2本ずつやさしくみがきましょう。
  • 介助者が行う場合は、表情などを観察しながら、むせや誤嚥に留意し、口腔内にたまった唾液はこまめに拭いたり、吐き出してもらうようにしましょう。
  • ブラシの毛先が当てたい位置にきちんと当たっているか、よく観察しながらみがきましょう。
  • 入れ歯のバネをかける歯は特に汚れやすいため、より丁寧にみがきましょう。
舌や粘膜のケア
  • 舌ブラシや軟らかい歯ブラシを用いて、舌のケアも行いましょう。これらのケアは歯のない人にも行いましょう。
  • 舌苔がみられる場合、ケアを行ってもなかなか取れない場合がありますが、一気にきれいにしようとせず、1回1回は手短に終わらせて、根気よく継続していくようにしましょう。
  • やりすぎると舌がヒリヒリしたりなど苦痛を伴うことがあるため、様子をみながら無理のない範囲で実施していきましょう。
  • 頬の内側などの粘膜のケアには、粘膜用ブラシや軟らかい歯ブラシなどを用います。やさしくこすりましょう。これらの刺激は口腔内のよいマッサージにもなります。
  • 歯みがき、舌や粘膜のケアが一通り終わったら、再度ブクブクうがいをして基本のケアは終了です。
入れ歯のケア
  • 入れ歯は毎食後、はずしてすすぎます。すすぎに加え、流水にあてながら入れ歯専用ブラシでみがきましょう。毎食後のケアが負担となる場合は、すすぎは毎食後+1日1回しっかりみがくのでもよいでしょう。

入れ歯の洗浄方法3)6)

入れ歯の洗浄については、先に述べたとおり、専用のブラシで、できれば毎食後にみがくことが基本的なケアになります。

  • ぬるぬるした汚れ(プラーク)はブラシでしっかりこすらないと落ちません。市販の入れ歯用洗浄剤は、ブラッシングの代わりではなく、ブラシでは取れない汚れ(見えない汚れや色素沈着など)に対して補助的に使うものと考えましょう。
  • 洗浄剤には部分入れ歯用と総入れ歯用があり、比較的短時間で洗浄が終わるものや、就寝の間浸けておくものなど、さまざまなタイプがあります。商品の特徴や使用方法を確認し、入れ歯の種類や生活スタイルに合ったものを選びましょう。

口腔ケアは「食べる」「話す」といった、生きがいや生活の質(QOL)に直結する機能を守る大切なケアです。ここで紹介した日常的な口腔ケアに加え、歯科医師や歯科衛生士による定期的なケア(プロフェッショナルケア)を受けることも忘れず、健康な口、健康な体づくりをめざしていきましょう。

監修

ふれあい歯科ごとう代表/博士(歯学)
五島 朋幸先生
(ごとう ともゆき)

  • 日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床准教授
  • 日本歯科大学東京短期大学歯科衛生士科講師
  • 東京医科歯科大学非常勤講師
  • 慶応義塾大学非常勤講師
  • 新宿食支援研究会代表
  • 株式会社WinWin代表取締役

経歴

1965年
広島県安芸郡府中町生まれ
1984年
安芸府中高校卒(第2回生)
1985年
日本歯科大学歯学部入学
1991年
同大学卒(80回)臨床研修医
1992年
臨床研究生
1993年
日本歯科大学歯学部歯科補綴学教室第1講座助手
1997年
訪問歯科診療に取り組み始める
2000年
医療法人社団星秀会理事・在宅診療部代表
2003年
ふれあい歯科ごとう代表 現在に至る