【図解】
フレイルとは?
主な原因と3つの対策
【フレイルチェック】

フレイルとは身体機能や認知機能が徐々に低下してきたときにみられる状態のことをいいます1)2)。従来、「虚弱」と訳されていた「Frailty」という語の新しい日本語訳でもあります3)。ここではフレイルの特徴や食事・運動など適切な対策法をわかりやすく解説します。

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フレイルとは?

フレイルとは、簡単にいうと加齢により体力や気力が弱まっている状態のことです1)2)
以前は「虚弱」や「衰弱」などとよばれていましたが3)、フレイルは、身体的問題、認知機能障害などの精神的・心理的問題、経済的困窮などの社会的問題など、さまざまな面からなる概念です1)2)
「虚弱」や「衰弱」という言葉の「加齢により不可逆的に老い衰えた状態」というイメージを払拭すべく、2014年に日本老年医学会が、英単語の「Frailty」がもつ「しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性が包含されている」とのイメージから、「フレイル」という言葉の使用を提唱しました3)
フレイルは要介護状態の前段階と考えられていますが1)2)4)、適切な介入により再び健康な状態に戻ることも期待できます。そのため早めの気づきと対策が重要です3)4)

フレイル5)

フレイルになる年齢は何歳?

何歳からフレイルに注意が必要なのか、その年齢は明確ではありません。その人の身体状況によって差があります4)
ただ、65歳以上の日本人を対象とした調査では、75歳未満でフレイルの方は5%以下ですが80代前半では20%を超え、85歳以上になると約35%の方がフレイルであったと報告されています5)。高齢になればなるほどフレイルに注意が必要といえるでしょう。

フレイルサルコペニア
違いは?

サルコペニアとは、加齢にともなって筋肉量や筋力、身体機能が低下した状態のことです。歩く速度や握力の低下といった身体的な問題も生じてきます6)7)
フレイルは、身体的な問題だけでなく、認知能力の低下などの精神的な問題や経済的困窮などの社会的な問題といったさまざまな面での虚弱状態を指します2)4)。サルコペニアは身体的な問題としてフレイルを引き起こす原因の1つとなっています7)

フレイルとサルコペニアの関係2)4)

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フレイルとはどんな状態?
判定基準
とは?

フレイルと考えられる状態は、次の5つの項目のうち、3つ以上該当する場合です8)

フレイルの判定基準8)
項目 評価基準
体重の減少 半年で2㎏以上の意図しない体重減少
筋力の低下 握力:男性<28kg、女性<18kg
疲労感 ここ2週間理由もなく疲れたような感じがする
歩行速度の低下 歩く速さが1秒あたり1mを下回る
身体活動 ①軽い運動・体操
②定期的な運動・スポーツ
上記の2ついずれも週1回未満の場合

1つか2つ該当する場合は、フレイルの前段階である「プレ・フレイル(前虚弱)」、1つも該当しない場合は「剛健(健康)」と判断します4)8)

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フレイルになる3つの原因とは?

フレイルは身体的問題や精神的問題などさまざまな要素を持つため、原因も多岐にわたります。ただ、それらの原因は大きく分けると栄養不足・運動不足・社会参加の不足の3つとなります5)

栄養不足

加齢による食欲の低下や、食べ物を噛み砕く力や飲み込む力の衰えによる食事量の減少は栄養不足につながります7)。栄養不足になると、筋肉量が減少して、筋力やからだの機能が低下するため、フレイルの悪化を招きます4)7)

運動不足

高齢になっても自立した生活を送るためには、身体機能を維持することが大切です10)。運動習慣や身体活動量が減ると筋肉は減ってしまいます6)。高齢期にみられる筋肉量の減少とからだの機能の衰えは、サルコペニアとよばれ、フレイルの原因の一つとなっています6)7)

社会参加の不足4)

就労や余暇活動、ボランティアなどで社会との関わりを持っている人は、フレイルに対するリスクが低いと報告されています。社会参加の機会が減ると、運動量や、人との交流が減ってしまいます。そうなると、からだや心の健康が損なわれてしまい、フレイル状態につながります。

持病があると
フレイルになりやすい?1)

フレイルの可能性を高める病気として、糖尿病などの生活習慣病や心血管疾患、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などが知られています。また、持病により多種類の薬を服用している状況もフレイルの可能性を高める原因の一つです。

さまざまな要因が重なると
フレイルサイクルに陥ることも

多様な原因が重なると、フレイルサイクルとよばれる悪循環に陥ってしまうこともあります7)。フレイルの段階では、まだ生活に困るほどではなくても、放っておくと心身の機能が徐々に低下し、転倒や骨折、認知症、要介護の可能性を高めます1)。ほかにも骨粗しょう症や生活習慣病の発症、心不全や慢性腎不全などの悪化につながることもあります1)
早めの気づきと適切な対策で、フレイルサイクルを断ち切ることが大切です11)

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今からできる
3つのフレイル対策

フレイルになる前だけでなく、フレイルになってからも、それ以上悪くならないよう対策することが重要です11)。毎日の習慣を少しずつ改善してフレイルを対策しましょう12)

運動

運動は筋力の維持だけでなく、心の健康や食欲増進にも役立ちます12)。65歳以上の方のからだを動かす時間の目安は、1日あたり合計40分です10)

  • 立って食事の
    支度をする
  • 水泳をする
  • こどもと遊ぶ
  • ラジオ体操をする
  • 階段を下りる

座ったままにならなければどんな動きでもOK!まずはいつもより10分多くからだを動かすところから始めてみましょう10)12)

栄養

フレイル対策の軸は栄養です4)。栄養バランスのとれた食事を3食しっかり食べましょう12)。また、残っている歯の数は食べる力に影響します4)7)。いつまでもおいしく食事を楽しむために、歯や歯茎のケアが大切です。

自分自身での口腔ケアのほか、プロの力も必要です。歯科への通院が難しければ訪問歯科を利用し、定期的に検診を受けましょう11)

1日2回以上は主食、主菜、副菜を組み合わせて食べると栄養バランスが良くなります12)。毎食、たんぱく質を含む食材をプラスすることも意識してみましょう12)。

社会参加

近所の人と一緒にお茶や食事を楽しむだけでも元気を取り戻すきっかけになります11)。外出することがフレイル予防につながります12)

趣味やボランティア、就労などあなたが前向きな気持ちで参加できる活動を探してみましょう4)12)

フレイル対策ではたんぱく質も重要7)12)

たんぱく質の摂取量が減ってしまうと、筋肉量も減少します。そのため、たんぱく質は高齢の方にとって重要な栄養素の1つです。
65歳以上の方を対象に、生活習慣病やフレイル、サルコペニアの発症予防を考慮したたんぱく質の目標量が定められています。まずは、日頃の食生活をふりかえり、毎回の食事にたんぱく質を含む食材をプラスすることから始めてみましょう。

フレイルにならないために目標にしたいたんぱく質量とメニュー例7)12)
1日に目標にしたいたんぱく質量は?
座って過ごすことが多いが、家事や買物、
通勤や軽い運動を行っている人
男性
65歳〜74歳90~120g*
女性
65歳〜74歳69~93g*

*生活習慣病やフレイル、サルコペニアの発症予防を考慮した目標量

1日でしっかり
\たんぱく質90g/
を摂るメニュー例

朝食
E:450kcal P:21g
  • ハムチーズトースト
  • 目玉焼き
  • 野菜サラダ
  • ヨーグルト
昼食
E:550kcal P:26g
  • ごはん
  • 鶏ハンバーグ
  • 酢の物
  • えだまめ
  • 果物
間食
E:250kcal P:9g
  • チーズケーキ
  • 豆乳ラテ
夕食
E:600kcal P:34g
  • 納豆ごはん
  • 鮭のバター焼き
  • 温野菜サラダ

いつものメニューに
たんぱく質を多く含む食品
プラスすることがポイントです

ちょっとした工夫で
たんぱく質をプラス!11)12)13)
  • ゆで卵は前の日に作って冷蔵庫へ
    朝食にすぐ食べられます

  • 麺類には肉や卵をトッピング

  • 缶詰や冷凍食品も立派な1品!

  • 間食にもたんぱく質の
    多いものをチョイス

  • ごはんには、納豆、卵、しらすなどのたんぱく質をプラス

  • コーヒーには牛乳や豆乳を
    たっぷり入れてラテに!

いつもの食事にもう1品。
準備が簡単で食べやすい、たんぱく質が豊富な食材をプラス!12)13)
卵類
目玉焼き 1つ 50g
7.4g
牛乳・乳製品
普通牛乳 1杯 200ml
6.6g
プロセスチーズ 1個 15g
3.4g
ヨーグルト 1カップ 70g
3.0g
肉類
焼き豚 1枚 20g
3.9g
ロースハム 1枚 20g
3.7g
豆類
木綿豆腐 1/4丁 80g
5.3g
納豆 1パック 45g
7.4g
魚類
焼きちくわ 1/2本 28g
3.4g
さつまあげ 1枚 30g
3.8g

監修

若林 秀隆先生
(わかばやし ひでたか)

学歴

平成7年
横浜市立大学医学部卒業
平成28年
東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部修了

職歴

平成7年5月~
日本赤十字社医療センター内科研修医
平成9年5月~
横浜市立大学医学部附属病院リハビリテーション科
平成10年6月~
横浜市総合リハビリテーションセンターリハビリテーション科
平成12年4月~
横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション科
平成15年4月~
済生会横浜市南部病院リハビリテーション科
平成20年4月~
横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科
令和2年6月~
東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授

資格・役職

  • Society on Sarcopenia, Cachexia and Wasting Disorders: Board member, Associate Editor of the Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle
  • 日本リハビリテーション栄養学会:理事長、国際委員長、編集委員、リハ栄養指導士
  • 日本リハビリテーション病院・施設協会:常務理事、医科歯科連携推進委員会委員長
  • 日本サルコペニア・フレイル学会:理事、広報委員会委員長、編集委員
  • 日本リハビリテーション医学会:指導医・専門医・認定医
  • 日本臨床栄養代謝学会:代議員、指導医
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会:評議員、学会認定士
  • 日本プライマリ・ケア連合学会:代議員、英文誌編集委員、研究支援委員
  • 日本在宅医療連合学会:評議員、編集委員
  • 日本腎臓リハビリテーション学会:代議員、腎臓リハ指導士
  • 日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会:理事

受賞

2015年
The 16th congress of PENSA. Best Free Paper Award Oral Presentation.
2018年
The 4th Asian Conference on Frailty and Sarcopenia. First Prize.

主な著書(単著・編著)

  • 『PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養-栄養ケアがリハを変える.2010.』
  • 『リハビリテーション栄養ハンドブック.2010.』
  • 『サルコペニアの摂食・嚥下障害-リハビリテーション栄養の可能性と実践.2012.』
  • 『悪液質とサルコペニア-リハビリテーション栄養アプローチ.2014.』
  • 『サルコペニアを防ぐ! 看護師によるリハビリテーション栄養.2017.』
  • 『リハ栄養からアプローチするサルコペニアバイブル.2018.』
  • 『リハビリテーション栄養ポケットマニュアル.2018.』
  • 『イラストで学ぶ 高齢者リハビリテーション栄養.2019.』
  • 『機能・活動・参加とQOLを高めるリハビリテーション薬剤.2019』
  • 『「攻めの栄養療法」実践マニュアル.2019』